時計に関しての補足

文字盤のオリジナル、リダンに関して






 文字盤をオリジナルかリダンを鑑定するには確かな証拠が必要です。限られたメーカーでは実物を当該メーカーに送付し、 保有する資料を基に鑑定も可能ですが、現実にはほとんどの場合、証拠となるべき記録も無く不可能に近いのが実情でしょう。 しかし、オリジナル、リダンと比較的安易に単語が飛び交っていますが、より正確に表現するなら「オリジナルorリダンと 思われる」ということでしょう。

 世界にはいくつかの時計業組合があり、それなりの表現基準を持っていますが、正確な鑑定に絶対的な資格要件を持つか といえばいくつかの疑問もあります。また、製造されてから半世紀以上経つ当該物品に関し、オリジナルの定義も実はあい まいです。当該固体の製造時装着のものか、オリジナルだけど同年代の他の個体から入れ替えたものか、その入れ替えは メーカーがおこなったものか、業者も含む第3者がおこなったものか、夜光の入れ替えはどう解釈するか、一部アップライト インデックスの修復はどう解釈するか、も、厳密な整理整頓はまだこれからだと思います。

 最近のリダンの技術革新も目覚しいものがあり、欧米の工房ではお金をかければ目視の範囲では判定がほとんど難しいも のが出来るようになっています。では、オリジナル、リダンの判定が見ても分からないレベルの当該固体を、購入希望者は なぜお店(や業者、個人売買の売り手)に聞くのかといえば、多くの場合はオリジナルの「保障の担保」に他ならないと思 います。ではなぜ、購入予定者がオリジナル担保を求めるかといえば、それが価値の保障につながり、オリジナルでないと いう鑑定に対し返品を要求する重要な根拠となりえるからだと思います。しかし、現実には民事訴訟において立証原告責任 から、オリジナル文字盤も根拠に売買契約をした場合でも、それを解除するにはオリジナルでないという鑑定が必要となり、 その鑑定書を誰が発行するかという点では現実には難しいと思います。

 よく聞く話として、購入後しばらく使っていて、あきて不要になった時計の買い取りを購入店以外のところに持ち込んだ とき、「これはリダンだから安くしか買い取れません。」という話をされ、その体験が次の購入時の防衛的な(オリジナル 文字盤)確認担保の重要な動機になっていることです。極端な例では(購入も買い取りリクエストも)同じお店で、購入時 にはオリジナルといわれ、買い取りリクエストをしたらリダンだといわれたという話もあります。買い取るときには少しで も安く買い叩きたいというお店の姿勢にも大きな問題があると思いますが、一方、一部の購入者は購入時にひつように文字 盤のオリジナル担保を求め、それを時計が不要になった場合の返品を強要する手段としている人達も存在することで、防衛 として顧問弁護士を置いてこの種の人達に対応しているお店もあるようです。つまり、灰色な部分があるだけ、売る側、買 う側に誠意?違反が存在していることになります。

 歴史の古い絵画業界では正式な鑑定機関を置き、真作に関してはその鑑定を証拠として採用しています。具体的にいうと、 お店が真作として販売したものが贋作であった場合、購入者は当該購入絵画を当該絵画の作家(あるいは親族など)、ある いは東美などの正式鑑定機関に持ち込み贋作の鑑定を受け、その鑑定書を販売したお店に持ち込むことで返品が可能となり ます。しかし、数年前に販売したものを持ち込まれると業界の秩序が崩壊する可能性もあるので、一般には半年から1年の 真作保障期間を設け、免責条項を入れているのが実態です。おそらくビンテージ時計業界は歴史がまだ浅く、残された未整 備な部分の一つと思いますが、現時点では、販売者それぞれが基準、あるいは考え方を提示し、そのルールの中で運営して いくのが実際に即した方法だと思います。

 そこで、当店では基本的には文字盤のオリジナル、リダンに関しては具体的な根拠 (リダンは基本的に文字盤一枚ショットでの印刷で、文字幅厚み傾向、かすれ、ゆがみなど、書体の年代矛盾、針とイン デックスの不整合、インデックスとベース接触面の塗料の状況、スモールセコンド、クロノグラフなどの場合のインダイヤ ルのエッジの状況など) による当店鑑定での推定とします。文字盤のオリジナルかリダンかの問い合わせに関してはお問い合わせ があれば理由をご説明させていただきますが、将来的なトラブルを未然に防止する意味でも(半世紀以上前に製造されたものが 多く、証明は不可能に近いので、)保障はできません。 しかし、仕入れ時の状況など、根拠となるエビデンスがある場合はオリジナル保障と表記しますが、その場合でも、オリジナル の保障期間は1年以内とさせていただきます。


発行日:平成17年1月1日  代表者:岩瀬 純夫